まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

折り本をつくる

少し長めに文章を書いて、ちいさな本をつくってみる。仕事のことを聞いていると、かならず、まちの話になる。だから、できあがったちいさな本を読むと、まちが人をつくり、人がまちをつくることをあらためて実感する。*1

まちや地域を知るためには、とにかくそこに暮らす人びとに近づくことだ。できるかぎり、仕事や生活の現場を訪ねてみるのがいいだろう。キーパーソンとの出会いがあれば、訪問先を探すのは格段に容易になるが、どれだけ細心の注意をはらっても、人びとの日常に「おじゃまする」ことになってしまう。それでも、暮らしのなかで語られるさまざまなエピソードに触れようとするのは、その人自身のことばかりではなく、まちの成り立ちや文化について理解する手がかりを、たくさん提供してもらえるからだ。インタビューをもとに、「折り本」と呼ばれるちいさな冊子をつくってみよう。

編集するということ

折り本づくりには、編集という作業の愉しさと難しさが凝縮されている。数時間のインタビューで聞いたこと・感じたことを文字に綴り、写真などとともにレイアウトする。もちろん、かわら版やポスターをつくるときにも同様のことを考えなくてはならないが、ちいさいながらも、「ページもの」なので、表紙も奥付もある。ページを繰ることですすむストーリー構成を考えなければならない。取材が充実していたときには、写真やメモがたくさんあって、取捨選択は悩ましい。だが、かぎられたスペースに、情報をうまく収めることこそが、編集なのだ。

f:id:who-me:20100515161622j:plain
f:id:who-me:20101113111914j:plain

 ちいさくても、きちんとページ割りを考えてからつくる。A3の用紙に印刷してから折ると、ポストカードくらいのサイズの冊子ができる。

まちで印刷する

私たちが標榜する「キャンプ」という活動では、現場でつくって、まちに還すことが大きな課題になっている。まちに還すコミュニケーションにはいろいろなスタイルがあるが、ここで紹介するのは、フィールドワークの成果を1枚の紙に印刷して、8ページの折り本をつくる方法である。たとえばA3サイズ(297×420mm)で制作すれば、A6サイズ(105×148mm)のちいさな本ができる。仕上がりは、ちょうどポストカードと同じくらいの親しみやすいサイズだ。

f:id:who-me:20180809233506j:plain
f:id:who-me:20180809233810j:plain

図のように面付けして印刷し、中央をカッターで切って折りたたむと、ちいさな冊子ができる。


出先で印刷するときは、いわゆる「出力センター」を探すのもいいが、コンビニを活用してみよう。最新のコピー機は、もはやコピーだけではなく、さまざまな機能が搭載されている。編集作業にはPCが必要だが、完成したファイルを送信し、コンビニで出力することができるから便利だ。いまのところは、送信できるデータの容量に制限があるが、これも編集について考えるいいきっかけだ。情報共有のためには、圧縮するノウハウが必要になるのだ。レイアウトの工夫をしながら、データのサイズを調整すれば、まちのコンビニを「出力センター」として使うことができる。

f:id:who-me:20180806165504j:plain

f:id:who-me:20180806165601j:plain

 

ふたたび、届けに行く

無事に印刷が済んだら、あとは、中央の部分をカッターで切って、折って、たたむだけだ。それで、折り本が完成する。いくつかのグループでフィールドワークをおこなえば、いちどに何冊かの本ができる。それぞれは8ページのちいさな本だか、なかなか読み応えがある。サイズもボリュームもおなじ「規格」でつくられているので、並べてみると、愉しい。

f:id:who-me:20100516114000j:plain
f:id:who-me:20100516152700j:plain

「キャンプ」において重要なのは,その場でつくって、まちに還すということだ。つまり「宿題」は持ち帰らないのである。写真は高崎フィールドワークでの制作プロセス:データ出力にコンビニまで → 完成した折り本を取材先に届ける(2010年5月)

そして、インタビューに協力していただいたかたがたをふたたび訪ねる。完成した折り本を携えて、成果を還しに行くのだ。聞いた話を正しく記述できているだろうか。気に入ってもらえるだろうか。緊張しながら、折り本を手渡す。そのコミュニケーションが、大切だ。きっと、編集作業での試行錯誤は、折り本を介して伝わるだろう。
折り本づくりは、編集だけでなく、読者のあり方について考える機会にもなる。印刷と加工(切って・折って・たたむ)を読者に委ねることができるようなら、おもしろい形の情報配信になるはずだ。たとえば、ちいさな冊子を定期的につくってサーバーに保存しておき、新刊の発行についてはメールなどで告知する。読み手は、ファイルをダウンロードし、じぶんの家や職場、あるいはコンビニで印刷して、読むことができる。画面で読むのではなく、ちいさな本をじぶんでつくってから読む。あたらしいスタイルの媒体を提案できるかもしれない。

 

折り本をつくるプロジェクト

これまでに何度か折り本をつくるプロジェクトを実施した。概要等の詳細は、ウェブで公開されている。

  •  高崎フィールドワーク [2010年5月15日(土)〜16日(日)]高崎市(群馬県)で実施したフィールドワークでは、高崎市ではたらく人びとをグループに分かれて取材した。集めた素材を編集し、ひと晩で9冊の折り本を完成させた。データはコンビニで出力し、取材先に届けた。 http://vanotica.net/takap1/
  • シブヤカルチャー大調査 2010!(シブヤ大学・定点観測学科) [2010年12月]パルコのアクロス編集部が中心となってすすめているシブヤ大学の「シブヤカルチャー大調査 2010!」では、調査の成果を折り本でまとめることになり、最終的には10数冊の折り本ができあがった。 http://www.web-across.com/

*1:このテキストは、『まちに還すコミュニケーション:ちいさなメディアの可能性』(2011年3月)に収録されている内容に加筆・修正したものです。