まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

カレンダーをつくる

カレンダーは、時間の流れを意識するためのメディアだ。まだまだ、工夫の余地がある。過去を懐かしむには、まだ早い。現在、そして未来に向き合うためのカレンダーをつくろう。*1

 

私たちは、さまざまな「生活記録」に囲まれて暮らしている。手紙、日記、アルバム、さらにはチケットの半券やレシートなど…。ちいさな記録によって、眠っていた記憶が目を覚ます。手がかりが乏しくて、新聞やネットを調べても探すことのできない「事件」は、友だちと一緒に確認するしかない。友だちは、生きている「記録」だ。みんなで集うことで、過去がふたたび息づくのだ。ひさしぶりでも、会えば昔の風景が立ち現れる。できれば、一緒にまちを歩いてみるといい。まち並みばかりでなく、自分たちの変化も感じることができるはずだ。

 

憶えている・憶えていない

友だち(もしくは友だちの友だち)を訪ねて、たとえば中学2年生のころについて語ってみる。思い出の場所に赴いて、まちの刺激を受けると、すぐに「あの頃」の顔が戻ってくるから不思議だ。饒舌になった友だちを、写真に撮ろう。いっぽう、思い出そうとすると、それほど当時を憶えていないことにも、愕然とする。自分の中学2年生の日々は、何だったのだろう…と。憶えていない過去は、薄っぺらでも無価値でもない。もちろん、いいことばかりではないが、いずれ思い出したくなる日が来るなどとは考えないくらい、濃密な時間が流れていた証拠なのだ。憶えていても、憶えていなくてもかまわない。コトの大小も、さほど問題ではない。大切なのは、時間の流れを感じながら友だちと語るひとときを、尊ぶことだ。

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【「首里フィールドワーク」(2010年12月)では、グループに分かれて取材をおこない、集めた素材を編集して、ひと晩でカレンダー(A4サイズ, リング綴じ)をつくった。 → 首里キャンプ(カレンダー)

 

みんなの記憶を織り込む

カレンダーは、とても実用的な道具だ。私たちは、カレンダーを使って、生活のリズムを組み立てているからだ。あらためて考えてみると、カレンダーは、毎日をできるかぎり等しく取り扱うようにデザインされていることが多いようだ。どの月も、どの曜日も、一日には同じ大きさの枠が割り当てられている。たとえば、一週間は、働くことからはじまるべきなのか、それとも休息からなのか。私たちは、知らず知らずのうちに、慣れ親しんだカレンダーを前提に、日常生活を考えるようになっている。

だが、言うまでもなく、私たちの日常生活は「事件(ハプニング)」に満ちている。毎日は、平坦ではなく、複雑で起伏に富んでいるのだから、すべてが同じ大きさの四角い枠に収まるほどシンプルではない。カレンダーづくりは、取るに足らない一日など、存在しないことに気づかせてくれる。みんなで記憶をたどりながら、その豊かな時間をカレンダーの上に復原してみよう。

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カレンダーとともに暮らす

カレンダーは、「半製品」だ。あらかじめ写真や文字が印刷され、あたらしい年を、あたらしい時間を過ごすための情報が並んでいる。そして、多くのカレンダーは、使われることによって「完成品」に近づく。大切な日は、カレンダーに印をつけて忘れないようにする。目標に向かってすすむために、言葉を添える。月ごとにページを繰ることで、季節の移ろいを感じる。カレンダーは、最後のページになるまで、少しずつ姿を変えてゆくのである。

オリジナルのカレンダーとともに、あたらしい1年を過ごす。誕生日も、数年前の出来事も、そして何よりも、みんなでカレンダーをつくった体験が、カレンダーに埋め込まれている。カレンダーそのものが、何かを思い出すきっかけになるにちがいない。カレンダーは、つねに書き換えられながら成長する。そして、そのカレンダーを育てることで、私たちは、友だちのこと、そしてまち並みのことを記憶に刻む。

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カレンダーづくりも、私たちのフィールドワークの成果を、まちに還す方法である。誰かの誕生日には、メールを書こう。笑顔の写真を見て、まちのことを思い出そう。カレンダーを壁に貼れば、まちとの長い関わりがはじまる。

 

● 首里フィールドワーク [2010年12月11日(土)〜12日(日)]
首里(沖縄県)で実施したフィールドワークでは、グループに分かれて取材をおこない、集めた素材を編集して、ひと晩でカレンダー(A4サイズ, リング綴じ)をつくった。過去の(ローカルな)話題や参加者全員の誕生日が、あらかじめ印刷されている。現場では、「手作りカレンダーキット」(ELECOM: EDT-CALA4WK)に印刷したが、その後、業者に依頼して100部だけ印刷し、参加者・関係者に配布した。

camp.yaboten.net

*1:このテキストは、『まちに還すコミュニケーション:ちいさなメディアの可能性』(2011年3月)に収録されている内容に加筆・修正したものです。