まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

 善行キャンプ

善行団地で考える・つくる

全国のまちを巡る「キャンプ」は、2019年12月に宮崎県日南市の飫肥(おび)に出かけて以来、ストップしていました。いまだに安心はできないものの、状況は好転しているので、やや変則的ながらも「キャンプ」を再開し、先月の「風越キャンプ」で、ひさしぶりにポスターをつくりました。
引き続き、(大学の「研究会」として)宿泊を伴う活動は禁止されているため、日帰りが可能な対象地をえらび、複数日に分けて全体のプログラムを構成します。

【きっかけ|つながりの系譜】この2年近く、「キャンプ」については動きを止められていたので、とにかく、限定的であっても秋学期はポスターづくりを再開したい。いま思うと、その「とにかく」という想いが強かったのだと思います。
もともとは、7月に看護医療学部の石川志麻先生(以下、石川さん)から連絡があったところから、はじまりました。石川さんとは、学内の委員会でご一緒する機会がたびたびあったのですが、善行団地でインタビュー調査をすすめているとのこと、いちど学生たちの成果報告会に参加してほしいという連絡でした。

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ぼくたちは、団地については、2014年度の秋学期に洋光台団地(横浜市)をフィールドに「団地の暮らし」というテーマでグループワークをおこない、その成果を「団地の暮らし展」として展示しました。その後、『三田評論』に「団地のこれから」という記事を書く機会があったり*1、ひょんなことから『桜の樹の下』という団地を舞台にしたドキュメンタリー映画*2のリーフレットに文章を寄せることになったり。とりわけ団地を研究対象としているわけではないのですが、石川さんは、ぼくが書いた『三田評論』の記事を目にしたことがあったようで、声をかけていただいたのでした。

石川さんの善行団地での試みは、たんなるインタビュー調査というよりは、地区診断や健康教育などにつながる話で、いわゆるサロン的な活動にかかわるものだったので、成果報告会に参加し、話を聞きました(それが、9月の下旬)。それをきっかけに、善行団地に暮らす人びとを対象に「キャンプ」ができないものかと考えるようになりました。いうまでもなく、この状況下にあって、善行であれば日帰りで実施できそうだという点も魅力に感じました。

その流れで、10月には善行団地の「みまもり会議」を見学させていただき、その後も善行市民センターのみなさんの協力をえながら「キャンプ」実施の可能性を検討しました。12月の「みまもり会議」では、今回の「キャンプ」の企画について説明する時間を設けていただきました。なかなか説明しづらいプロジェクトではあるのですが、数週間前の「風越キャンプ」のダイジェストビデオやポスター(実物)を紹介して、なんとなく雰囲気は伝わったのではないかと思います。いずれにせよ、実施OKという判断となりました。かなり慌ただしい調整でしたが、石川さんがすすめているプロジェクトに寄生するような感じの企画です。
もちろん、看護医療学部との共同プロジェクトとしての可能性はもとより、キャンパスに近いフィールドとして、この先のことも積極的に考えてみるつもりです。「善行キャンプ」は、日帰りで善行団地に暮らす人びと(今回は「みまもり会議」のメンバーが中心)を取材し、翌日にポスター展と成果報告会おこなう計画です。  

  • 日時:2021年12月18日(土)・19日(日)(現地集合・現地解散)
  • 場所:善行団地(〒251-0877 神奈川県藤沢市善行団地)
  • 本部(作業):善行団地(第2集会所)* 予定
  • 参加メンバー(加藤文俊研究室):18名(学部生 16名・大学院生 1名・教員 1名)*12月10日現在

スケジュール(暫定版)

12月18日(土)
  • 12:30ごろ 集合:善行団地・第2集会所(〒251-0877 神奈川県藤沢市善行団地)*昼食を済ませて集合
  • 13:00〜14:30ごろ フィールドワーク・インタビュー(ペアごとに行動・取材先に応じて随時スタート):できるかぎり取材協力者の日常に接近して、その「生きざま」をとらえます。
  • 〜17:00* アイデア出し・デザイン作業(ペアごとに行動):フィールドワークで集めてきた素材をもとに、ポスターのデザイン/編集作業をすすめます。(*第2集会所)17:00以降の作業場所については要調整
12月19日(日)
  • 00:00 ポスターデータ入稿:データ提出(時間厳守)
  • 10:30ごろ〜 展示準備・設営 会場:善行団地・第2集会所
  • 12:30ごろ〜 「善行団地の人びとのポスター展」
    (12:30〜 成果報告会 → 13:30〜 ふり返りビデオ鑑賞・まとめと講評)
  • 14:00ごろ 片づけ・解散

*1:『三田評論』2017年11月号(特集:空き家問題と住宅政策)

*2:『桜の樹の下』2016年 https://www.sakuranokinoshita.com/

「キャンプ」について:再考(1)

塗りかけの地図

先日、およそ2年ぶりに「キャンプ」を実施した(→ 2021年11月:「風越キャンプ」)。COVID-19の影響下にあって、宿泊をともなう活動は許されていないため、日帰りのプロジェクトになった。なので遠出はできず、塗りかけの地図は2年前の冬(→ 2019年12月:「おびキャンプ」)から、変わらないまま。47都道府県の踏査(コンプリート)まで、残り8府県である。*1

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キャンプ|2004〜2019(2019年12月16日更新) https://camp.yaboten.net/entry/area_index

ここしばらくは、1年間に4か所へ出かけるというペースで活動していたので、順調にすすめば、あと2年で“コンプリート”の予定だった。せっかくなら、最後は生まれ故郷の京都で締めくくろうというところまで考えていた。47か所目の「キャンプ」に参加し、記念すべき瞬間に立ち会うことを楽しみにしていた学生もいる。

だが、思わぬかたちで、足踏みせざるをえなくなった。COVID-19のせいで、外に出ることも人に会うことも制限され、これまで続けてきた「キャンプ」の動きが封じられてしまった。この1年半ほどは、窮屈な状況のなかでも、動けそうなときにはなるべく外に出たり、「非接触」に徹して遠くから人びとのふるまいを観察したり、あれこれと工夫しながら活動していた*2。コミュニケーションの大半は、オンラインだった。ようやく、この秋になって状況が好転し、少しずつ動けるようになってきた(これを書いているいま、ふたたび不穏な報道で少し気分がざわついているが)。

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2021年11月21日(日)|ひさしぶりに、みんなで「外」に出かけた(風越キャンプ)。

冒頭で述べたとおり、今回はおよそ2年ぶりの「キャンプ」だった。感染予防対策や授業のオンライン化などでドタバタと過ごしているあいだに、あたりまえのようにこなしていた「キャンプ」の準備やすすめ方がわからなくなっていた。もちろん、すべてを忘れてしまったということではない。10数年にわたって続けてきたことなので、「キャンプ」にかかわるふるまいは、身体にしみ込んでいるはずだ。だから、勘が鈍ったということなのだろう。ひさしぶりに実施してみると、いろいろなことに考えがおよんでいなかったことに気づく。大きなトラブルはなかったが、以前なら細かく対応できていたはずのこともいくつかあって、2年間の「ブランク」の影響を思い知った。

じつは、学生が逐次入れ替わってゆく「研究室」のことを考えると、より大きな課題に直面しているのかもしれない。毎回、記録は残すようにしているが、「キャンプ」は体験をとおして学ぶことが多い。はじめて参加する学生は、経験者(ひと足先に「キャンプ」を体験した先輩)と一緒に活動することで、現場でのふるまい方を体得する。たとえばペアを組んで動いている状況で、理屈も目の前のことも、その都度話をしながらすすめる。あるいは話さなくても、先輩の「背中を見ながら」知らず知らずのうちにコツや勘どころをつかんでゆく。つまり、「キャンプ」という活動にかかわる知識・知恵をじぶんに取り込もうとするとき、身体の役割は無視できないのだ。ことばはもちろん大切だが、ことばによるコミュニケーションに潤いをあたえるのは、身体によるコミュニケーションだ。COVID-19によって生まれた「ブランク」によって、この身体をとおした継承・伝承が絶たれしまったのではないか。

これを、やや大げさに「断絶」だと考えると、これまで10数年かけてつくってきた研究室の「文化」ともいうべきものが消えてなくなってしまったような感覚になる。だが、心配にはおよばない。ふり返ってみれば、最初は何もなかったのだ。「キャンプ」ということばで活動を語ることさえ考えていなかった。それなりの時間をかけて、試行錯誤を経ながら、「キャンプ」でのことばと身体のありようを整えてきた。さらにいえば、回を重ねるにつれて、つまり場数が増えることで、惰性や弛みのような状況も生まれつつあった。だから、不意ではあったものの、この「断絶」はそれほど悲観的に考えないほうがいいのだろう。少しずつ元に戻すのかどうかもふくめ、よく考えながら、また「文化」を育めばいい。

「キャンプ」をとらえなおす

学生たちとともに、まちを歩き、人びととかかわる。まちのこと、地域のことは、人びととのコミュニケーションをとおして(とおしてのみ)見えてくる。だからこそ、コミュニケーションを促す仕組みをつくることが、重要なテーマになる。ぼくたちの活動の原型(つまり「キャンプ」の原型)となったのは、葛飾柴又でのフィールドワーク(2004年11月)だった。

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2004年11月9日の新聞記事|まだスマホもInstagramもなかった。

フィールドワークをはじめとする質的調査という意味では、同じ場所にたびたび赴く(狭く深く)のが常套だと理解しながらも、たくさんの人に出会い、ことなる「地域性」(それがわかりやすく目の前に表れるかどうかはともかく)に触れるためには、いっそのこと47都道府県を踏査しよう(広く浅く)と考えるようになった。すでに触れたように、たとえば1年間に4か所へ出かけるとしても10年以上はかかる。それでも、とにかく続けることが大事だと思って方向性を決めた。
現実的には、20名近くの学生とともに出かけて、宿泊をともなう形で活動するのだから、調査者として、教員として、考えるべきことがたくさんある。試行錯誤を重ねながらすすめていくうちに、5年ほど続けたところで『キャンプ論:あたらしいフィールドワーク』という本をまとめることができた。当時の「キャンプ」に込めた考え方・ふるまい方については、ひととおり書いたつもりだ。だが、すでに『キャンプ論』から10年が過ぎて、さらにCOVID-19が社会調査に(そしてぼくたちの暮らしに)あたえた影響は記しておくべきものなので、つぎのまとめを書こうとしている。

はじめてのまちに出かけて、出会った人びとと向き合おうとするとき、お互いの緊張感を和らげ、コミュニケーションを促すための方法に関心が向く。堅苦しいインタビューではなく、ざっくばらんにおしゃべりをすることができれば、おのずと自然な表情をとらえることができるはずだ。どのような場づくりを心がければいいのだろうか。「キャンプ」を唱えているのだから、かぎられた滞在時間をどう使うか、工夫しなければならない。また、わずかな滞在を終えて訪問先を離れるとしても、長きにわたってつき合う関係になるかもしれない。「キャンプ」は、そのきっかけになる可能性もある。

『キャンプ論』では、「一宿一飯の恩義」ならぬ「一服一串の恩義」について書いた。たとえば旅先で偶然と幸運によって出会い、ちょっとお邪魔しておしゃべりをしているあいだにお茶とお団子をごちそうになる。コミュニケーションをとおして、お互いを知る。大切なのは、そのひとときを味わうことができたお礼に〈何か〉をしようという気持ちだ。
できることなら、感謝の気持ちを込めて一句詠んで、短冊にスラスラと書き残したいところだ。皿洗いや掃除で想いを伝えるやり方もある。さて、どうしよう。ぼくたちは、スマホやPCを携えて「ちいさなメディア」をつくる。やや荒削りであっても、かかわりを持てたことへの謝意を形にする。それは、出会って過ごしたことの記録であり、これからのかかわりにつながる〈何か〉になる。

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ポスターをつくる|2019年12月「おびキャンプ」

ぼくたちは、身近になったモバイルメディアを活用しながら、ポストカードやビデオクリップなど、さまざまな「ちいさなメディア」をつくってみた。即興というわけにはいかないものの、かぎられた滞在時間で完成させることを考えつつ、2009年からポスターをつくるようになった(→ 2009年9月:「家島フィールドワーク」)。数回の試行を経て、作業時間や作業のしやすさ、見た目のインパクトなど、さまざまな観点からポスターをつくる活動が「ほどよい」ことがわかり、以来、「キャンプ」は、ポスターづくりのワークショップを指すようになっている。

フィールドワークの実践は、いくつものハプニングによってかたどられる。どれほど周到に準備しておいても、現場では必ず(おそらく、必ずと言ってよい)予期せぬハプニングに遭遇する。だから、ぼく自身もそうだが、参加する学生たちも、現場での即時即興的な判断が求められることになる。その能力やセンスは、(すでに述べたとおり)身体的に育まれる。じつは、「キャンプ」の考え方自体も、実践をともなう形で説明したほうがわかりやすいはずだ。2年ぶりの「キャンプ」は、それさえもままならない状況で実施したのだった。
(つづく)

*1:年代別インデックスはこちら → http://camp.yaboten.net/entry/time_index

*2:たとえば「ちょっと窮屈な毎日(2020)」「人びとの池上線(2020)」「人びとの世田谷線(2020)」「ムービーキャンプ(2021)」「人びとの多摩川線(2021)」など。

風越キャンプ(ドキュメント)

ビデオでふり返る

2021年11月21日(日)、およそ2年ぶりに「キャンプ」を実施しました。今回は、日帰りで取材をおこない、翌々日までにポスターを制作するという流れです。このダイジェストビデオは、取材からポスター制作までを記録したものです。(ポスターはここ → https://camp.yaboten.net/entry/kzksh_posters

◉撮影・編集:飯盛 いずみ・大河原 さくら



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2021年11月30日(火)|成果報告会のあとでビデオを鑑賞

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2021年11月30日(火)|風越学園にも貼ってあります!(写真提供=中田早紀)

camp.yaboten.net

風越キャンプ(ポスター)

ポスターをつくる

(2021年11月23日)およそ2年ぶりのポスターづくりのプロジェクトです(この日が来るまで、長かった…)。今回は、8名のかたがたにインタビューをおこない、ふた晩かけてポスターをつくりました。“ポスター展のポスター”をふくめて9枚。取材にご協力いただいたみなさん、ありがとうございました。
状況は好転しているものの、まだCOVID-19の影響下にあり、宿泊をともなう活動ができません。今回は、日帰りで取材をし、翌々日までにポスターを完成させる(いつもとちがう)段取りですすめました。成果報告会は、オンライン/ハイフレックスでの実施を計画しています。
(2021年11月30日)成果報告会を終えて、ポスターを公開しました。

風越の人びとのポスター展
  • 会期:2021年11月30日(火)20:00ごろ〜
  • 成果報告会:2021年11月30日(火)17:00〜 オンライン/ハイフレックスで成果報告会をおこないます。(報告のあと、ふり返りビデオ鑑賞・まとめと講評成果報告会は終了しました。ありがとうございました。
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2021年11月30日(火)|成果報告会(リモートで風越学園とつないで実施)

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2021年11月30日(火)|成果報告会(リモートで大学とつないで)写真提供=中田早紀

 

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B面 写真提供:堤飛鳥

 

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「キャンプ」の練習

2021年11月16日(火)

全国のまちを巡る「キャンプ」では、ポスターづくりのプロジェクトをすすめてきましたが、COVID-19の影響で、2年近く休眠状態にあります。変則的ではあるものの、日帰りで「キャンプ(→ 風越キャンプ)」を実施することになったので、これまでのブランクを埋めるためのウォーミングアップとして、2時間半ほどで取材〜ポスター制作までを体験する「キャンプ」の練習をおこないました。

おおまかなスケジュール
  • 15:00〜 「キャンプ」とは(ぷちレクチャー)
  • 15:30 グループ分け+ドラフト会議
  • 15:40〜16:30 グループごとに取材(インタビュー+写真を撮る)
  • 16:30〜 ポスターづくり
  • 17:30 プレゼンテーション(+ふり返りビデオの上映)
  • 18:00 終了

この日は18:00過ぎから会議が予定されていたため、講評・ふり返りができなかったのですが、ぎゅっと3時間に凝縮した「キャンプ」で、ひさしぶりに味わうスピード感は、なかなかよかったです。これで、少しずつでも勘を取り戻すことができればと思います(取り戻すというより、初めての学生が大部分でしたが)。
じつは、「キャンプ」でのふるまいは、詳細なところまで言語化(活字化)されることはなく、現場での口承に近いかたちで引き継がれてきました。COVID-19によって、ある種の(口承の)断絶が起きているともいえます。そのことを憂ういっぽうで、これまでの準備や運営について、あらためてチェックする機会をえたと考えることもできます。

ポスター

上記のスケジュールで進行し、つくられたポスターです。

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ビデオ(ドキュメント)

ドラフト会議〜ポスター制作までのようすを記録したダイジェストビデオです。

◎ビデオ撮影・編集:山本凜