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まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

トレイナート号にゆられる。(後編)

和歌山県 レポート

「トレイナート」のゆれ

カーブが多いからだろうか。トレイナート号はゆれる。本を読んだり、文章を書いたりすると酔ってしまいそうなので、窓の外や車内をじろじろと観察しながら、いろいろなことを考えた。(幸か不幸か)職業病ともいうべきもののせいか、企画の成り立ちをはじめ、スタッフの動き、コミュニケーションのあり方、乗客(鑑賞者)たちの反応にいたるまで、「トレイナート」について、言いたいことがたくさん頭に浮かんだ。いずれ、他のプロジェクトと関連づけながら整理してみたいと思うが、ひとつだけここで挙げておくとするならば、それは「チーム・トレイナート」の結束の固さのことだ。

駅舎を「ギャラリー」に変え、それらを結ぶ特別列車が往復する。「トレイナート」に向けて、さまざまな交渉や調整が(そして汗も涙も)あったことは想像できる。なにより、今回の試みが実現したことに大きな拍手を贈りたい。実現の原動力になったのは、おそらく「チーム・トレイナート」の一体感だ。少しでも「トレイナート」に参加した人なら、誰もが、アーティストどうしの仲の良さに気づいたはずだ。他にも、スタッフとしてこのイベントを応援する人がたくさんいた。

http://instagram.com/p/ukbHGDpZZW/

【2014年10月25日(土)トレイナート号】

よく考えてみると、このイベントに関しては「地域活性化」や「まちづくり」ということばをほとんど聞かなかった。その意味では、今どきの、数あるアートプロジェクトとは、どこかちがう素朴さがある。仲良しのアーティストたちが、電車と駅舎の界隈を借りて、和気あいあいと「あたらしいお祭り」をはじめたようなものだ。多少の失敗は、きっと許される。いつも、誰かに甘えることのできる安心感もある。だからこそ、嫌みのないイベントになっているのだろう。

でも、「トレイナート」は、ゆれていた。無邪気であることは尊ぶべきことだが、無知であってはならない。もし「あたらしいお祭り」をつくろうということなら、今回はその記念すべき第一歩だ。これからは、(もし望むらなら)誰もが「チーム」の一員になれるように、いくつもの「入口」をきちんと用意しておかなければならないだろう。もちろん「出口」も必要だ。その上で、それでも「チーム」に無関心な人びとの居場所も考えなければならない。「お祭り嫌い」は、少なからずいるものだ。

「トレイナート」は、やがて人びとに愛される「お祭り」になるのか。それとも、儚く消える「お祭り騒ぎ」だったのか。「トレイナート」の「外側」に何があるのか(あったのか)、ゆっくりと時間をかけてふり返ることが大切だ。

 

8つの「ものがたり」

こんなふうに、ぼく自身はあれこれ考えながらゆれていたのだが、「加藤研」として足をはこんだからには、「何か」を現場に還して帰りたい。その想いが、ゆらぐことはなかった。今回は、ポスターづくりではなく、ペア(あるいは3人)で「トレイナート」の記録を試みた。26日の朝、トレイナート号の車内でプレゼンテーションをおこなうということだけを決めて、あとは、基本的に自由だ。

学生たちは、どのように「トレイナート」と向き合うかを考え、人と関わって(あるいは、じっと駅に留まって)素材を集め、ひと晩かけて成果をまとめた。電車のなかでのプレゼンテーションは、2008年の冬、豊橋市電のなかで成果報告会を開いて以来、2度目。プロジェクターもマイク(アンプ)もバッテリーで動かして、1時間ほど、電車のなかを「教室」のようにつかうことができた。

かぎられた時間で取材も制作もすすめなければならなかったので、仕上げはやや粗いものの、それぞれのグループの個性が際立っていて、どれも面白かった。一日二日前の出来事について、まさにその現場の辺りを移動しながらみんなで共有するやり方は、臨場感にあふれていた。学生たちが綴った「トレイナート」をめぐる8つの「ものがたり」を並べることで、このイベントに、あらたな輪郭を描きくわえることができるのではないかと思う。いずれも、プログラムには載っていない、アーティストと乗客(鑑賞者)との「あいだ」にある成果物だ。

【2014年10月26日(日)トレイナート号でプレゼンテーション(time-lapse)】中吊りのかわりに模造紙を提げて、スライドや動画を投影。

昼ごろ、湯川駅で降りて、記念撮影をして解散した。串本に向かう「普通」列車(ワンマン)は、トレイナート号とは全然ちがう雰囲気だった。ゆれは変わらなかったが、「お祭り」の喧噪はなかった。とても静かで、ちょっと救われた気分になった。ぼくは、「チーム・トレイナート」と「加藤研」を重ね合わせながら、窓の外を眺めていた。

◎学生たちによる「トレイナート」の記録は、近日中にウェブ上で公開します。

◎トレイナートの「ものがたり」(10月31日追記)http://vanotica.net/trainart/