電車を降りたくなるまち。
2008年5月17日(土)〜18日(日)にかけて、宇宿(うすき)商店街(鹿児島県)を中心とするエリアでフィールド調査を実施しました。今回は、5名程度のグループに分かれて、インタビュー取材やまち歩きをつうじて素材を集め、「電車を降りたくなるまち」をテーマに60秒程度のビデオクリップを作成しました。
今回は、ポーズボタンを多用したり、あるいは長回しをすることだけでビデオ作成をおこなうことにしました。時間のみならず、編集する環境にも制約をくわえ、そのなかで、見たこと・感じたことをフィールドワークの「あしあと」として残します。通常、ぼくたちは、訪れたまちでの体験を「おみやげ」として持ち帰ることばかりを考えがちですが、たとえ短い滞在であったとしても、調査者は、きちんと「あしあと」を残す責任を負うと考えているからです。
5月18日(日)は、それぞれが、自由に鹿児島を歩きまわりました。事前に、使い捨てカメラ(27枚撮り)を配布し、鹿児島を離れる前に撮りきるというルールで写真を写しました。20人が見た、2008年5月18日の鹿児島です。他愛のない写真でも、やがては価値のある「記録」になる可能性をもっています。
宇宿を歩く
学生たちとともにまちを巡る、「リサーチキャラバン」の試みで、初の九州へ…。今回は、鹿児島市の宇宿(うすき)商店街を歩くことになりました。当初は、江ノ電や函館市電で実践した「中吊りギャラリー」の鹿児島編を考えていたのですが、素敵な「出会い」に導かれて、宇宿で電車を降りてみました。
ぼくたちは、これまで、「よそ者・若者・バカ者」ならではの、ものの見方・考え方を活かしたフィールドワークをおこない、地域資源を発見・再発見しながら、地域メディアのデザインをすすめてきました。
たとえばポストカードやまち歩き用の音声ガイド、電車の中吊り広告など、調査結果をできるかぎり具体的なかたちで公開・流通させ、さらにあたらしい関係性を育むために役立てようという試みです。今回は、5名程度のグループに分かれて、宇宿商店街を中心とするエリアのフィールド調査をおこないました。
編集しない
学生たちは、まちを歩きながら、「電車を降りたくなるまち」というテーマでストーリー構成を考えます。そして、撮影です。徹夜でビデオを編集するのは、それはそれで「合宿」の良さがあるのですが、せっかく数百キロも旅したのですから、みんなで食べたり飲んだり、そして、地元のかたがたと語ったりという時間も必要です。少しばかり、のんびりと鹿児島を見物する余裕をもつために、今回は、編集なしのビデオ作成にしました。
厳密には、編集しない…のではなく、あとから編集できないということです。ポーズボタンを多用しながらカットをつないだり(ストーリーにしたがって、少しずつつなぐ)、長回しで撮ったり、というやり方です。昼前からスタートして、陽が落ちる頃までに、ビデオを完成させる必要があります。
いろいろとやりづらい面もあったはずですが、この編集なしというやり方のおかげで、夕刻から地元のかたがたを招いて上映会を開き、そのあとは交流会…という流れが実現しました。
まちに還す
陽が落ちると、外での撮影が難しくなるので、いやでも、夕刻には作品ができあがることになります。あるいは、ムリヤリ、完成させるということかもしれません。まさにできあがったばかりのCM映像を、地元の人びとに観てもらい、意見交換をしました。
いうまでもなく、学生たちの作品を評価するのは教員だけではありません。調査をおこなった現場で、場合によっては被写体となって映像に登場する人から、直接、感想やコメントを聞くこともできます。すべてが、リアルで鮮明な体験です。
今回作成されたCM映像は、「おきみやげ」のようなものです。つまり、ぼくたちは「電車を降りた」記念に、そしてお世話になったお礼に、「何か」を置いて帰るということです。ぼくたちの「おきみやげ」をどうするか…。それは、地域のかたがたにおまかせします。「一宿一飯の恩義」ならぬ、「一服一杯の恩義」です。このご縁があれば、ぼくたちは、ふたたび「電車を降りたくなる」はずです。
時間を出し合う
今回、一番うれしかったのは、地元の大学生(鹿児島国際大学・経済学部 地域創生学科)の皆さんと一緒に活動できたことです。これまでにも企画はあったものの、なかなか実現にはいたりませんでした。もちろん、フォーマルな「大学間交流」ではありませんが、だからこそ、ゆるやかに過ごせたように思えます。
この日は、8名ほどが、ぼくたちと一緒に活動してくれました。はじめて会った人と、どのように語り、ビデオづくりをすすめるか。そこからが、課題です。
いささか唐突ですが、「地域に開かれた大学」を考えるとき、ぼくたちは、「大道芸人」のように発想することが大切なのだと思います。大道芸人は、トランクひとつでまちを巡り、瞬時にまちを「ステージ」に変えることができます。魅力的な芸があれば、道ゆくひとは、足をとめてくれるのです。それを目指して、芸を磨かなければならない。
ぼくたちも、旅をしながら、行く先々で創造的な「場」を立ち上げてみたいと考えています。たとえば、カバンからビデオカメラ取り出して、まちの良さを綴るのです。若くてしなやかな「まなざし」があれば、人は立ち止まって、声をかけてくれるはずです。そのためにも、ぼくたちは、じぶんたちの活動を、「外」へと開きながら、五感を駆使してまちを歩くのです。