まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

おうちから家族を紐解く

(2025年8月7日)この文章は、2025年度春学期「卒プロ1」の成果報告として提出されたものです。体裁を整える目的で一部修正しましたが、本文は提出されたまま掲載しています。

清水 彩也香|Sayaka Shimizu

はじめに 

私の卒業プロジェクトは、家にあるモノを通して家族の大事にしているもの、価値観、性格などを紐解いていくというものだ。我が家は今どき珍しい3世代世帯である。1階に母方の祖父母、2階に両親と私が暮らしている。両親は共働きであったため、保育園への送り迎え、ご飯のマナーや挨拶など、いわゆるしつけは祖父母がしてくれた。そんな祖父母のことを、私は物心ついた時から「パパさん、ママさん」と呼んでいる。生活圏は分かれているものの、晩御飯はできる限り一緒に食べ、時間を共有することを大切にしている。そんな家族5人のこだわりがつまった家を卒プロのフィールドにしている。

 

テーマの変遷・背景

元々卒プロ1を始める前は別のテーマを進めていた。「ママさんの暮らしを観察したい」と思い、祖母の暮らしの工夫を記録していたのだ。きっかけになったのは、1年前の善行団地での経験だ。住民の方々へ暮らしにまつわるインタビューをする機会があり、そこで団地のルールや加齢に伴う身体の変化などいろんな制限がある中で、心を豊かにしようと工夫を凝らしているおじいちゃんおばあちゃんに出会った。自主的に棟の前を掃除したり、回覧板にメッセージを添えることで近所との交流を深めたり、団地に咲く四季折々の花を療養中の旦那さんに届け続けて幸せを感じていたり、それぞれがそれぞれの方法で充実した生活を送っていた。この出会いをきっかけに、私は小さいことにでも幸せを感じられる、自らその幸せを作り出せる人でありたいと思うようになった。そこで、ふと祖母の顔が浮かんだ。我が家にもいろんな工夫をしながら楽しく人生を送っている人がいる、と。私は、そんな彼女の生活をじっくり見たくなった。暮らしの観察という大きなテーマをどう進めていくか考えているとき、「持続可能なライフスタイルデザイン手法」として2013年にグッドデザイン・未来づくりデザイン賞を受賞した「90歳ヒアリング」の存在を知った。これは、東京都市大学の古川柳蔵教授が低環境負荷な暮らしのかたちに関する研究の一環として実施しているもので、90歳前後の方々に直接話を聞き、戦前の暮らし方について分析し、暮らしの知恵や感性を再発見することで未来の暮らし方の変革モデルを提案していくものである。私の祖母は81歳であるため、対象の年齢とは離れているものの、「暮らし」を知る手段としてインタビューがどう活用できるか、公開されているマニュアルを参考に考え、実践しようと思っていた。

しかし、3月のある出来事をきっかけに、ママさんに限らず「私の家族」を対象に暮らしを観察したいと思うようになった。3月中旬、約8年間癌と闘っていた父が亡くなった。2歳の時に父方の祖父が亡くなって以降、親族の誰かとお別れするのは初めてだった。こんなに喪失感を覚えたのも初めてだった。そんな中遺品整理をしていると、思い出深いものがたくさん出てきた。一緒に弾こうと半分ずつお金を出したが結局ケースにしまわれ続けたアコースティック・ギター、父の日にプレゼントして以降3日に1回のペースで着ていたパイナップル柄のシャツ、たくさんの家族写真など。同時に、物で溢れている我が家でも、父のクローゼットや書類が入っている棚だけ妙に整理整頓されていることに気づいた。リモコンやコースターなど一つひとつのモノに住所を決めるほどの家族イチの綺麗好きで、無駄なものを買わない性格が反映されていた。「家」という箱には、それぞれが大切に思っているもの、それぞれの性格や信念がつまっている。そんなことに気づいた時、家族がそれぞれどんなことを思い毎日を過ごしているのか、どんなことを大切にしているのか、家の中を観察することで紐解いていけるのではないか、と思った。実際、進んでいたママさんの暮らしの工夫の観察も、家にあるモノに対して「これは何?」と聞く中で明らかになっていったものばかりだった。父とのお別れを通して、家族を失うことの怖さや辛さを実感した私は、家族の記録を日々残すことの大切さ、残さなかったことへの後悔、同時に残していることへの安心感に気づいた。きっとあたりまえだと思っている日常を意識的に残しておくことが、いつかの自分の心の支えになる。そこから、家族が生きている証、生きてきた証を辿って残す卒業プロジェクトをやりたいと思った。自分の家での観察を終えたときには、「お家から家族を紐解く方法」を提案できるようになれていたら嬉しい。

 

「卒プロ1」を通して見えてきたこと

卒プロ1では、家の中を「1階キッチン棚」「1階畳部屋の角」「2階ベッドルームの押し入れ」などエリアで分けて、1つずつ観察し、気になったものについては所有者に聞きながら、記録を行った。祖父母は1階、母と私は2階と世帯ごとに居住空間を分けていることから、普段は全く足を踏み入れないエリアも多く、新鮮な気持ちで家を探索することができている。記録方法は、「おうち」考現学について書かれている『ホーム・スウィート・ホーム』という本を参考にしている。「生き方の数だけ存在する住まいのかたちを見たい」と多くの家を訪ねる筆者が、家の俯瞰図イラストと共に各家庭での家のこだわりやエピソードをまとめているものだ。私はこの本を通して、家主の性格や仕事への関わり方、同居人との関係性が家からこんなにも分かるものなのかと驚いた。
私は本を参考に、観察エリアを一番使っている家族に付き添ってもらい、「これはなんでここにあるの?」「いつからあるの?」など何気ない質問を投げかけながら、進めている。やり取りは全て録音をし、後から写真やメモと合わせデータとして分析している。はじめは、家の隅から隅までを観察しようと思っていたのだが、やっていくうちに現実的ではないことに気づいた。いざ進めると、観察には1箇所に最低でも1時間かかってしまい、そこから文字起こしをすると相当な時間を使うことがわかったのだ。
こんなに時間がかかるのにも理由がある。1つ目は、単純にモノが多いからだ。我が家は2000年に母と祖父母が1から建てた家であり、今後引越しをする計画もないため、モノは捨てられずに溜まっていく。また、祖母は「捨てるものは何もないんだよ」とよく言っているくらいになんでも有効活用してしまう性格で、母も紙袋やお菓子の箱などをいつかのためにと取っておくタイプである。私もその血を引き継ぎ色々と残してしまう性格であるため、気づいたらモノは溜まっているのだ。2つ目は、話がどんどん広がっていくからだ。特に意識していなくても、1つのものから過去のエピソード、連想される別のモノの話へと広がっていく。時には時間を置いて「そういえばあれ…」と話が続くこともある。このように観察に時間がかかることから、家の中でも特に気になる、こだわりがつまっていそうなエリアを厳選して記録していくことにした。

 

実際にやってみた

卒プロ1で観察したのは、3箇所である。

【1回目】

  • 場所:1階 パソコンエリア
  • 日時:5/31(土)15:35〜 
  • 所有時間:60分間

気づき① 連想された違うモノの話へ
最初は写真①の肩たたきの話をしていたのだが、気づいたら今回は観察対象外だった場所にある写真②のめん棒の話になっていたのだ。

パパさん「これ、肩トントンするやつ。あの、それ、新聞の広告を丸めて作ったやつな!」
私「これも手作り?」
パパさん「うん、ママさんがお手製のやつね」「それでこれは、このめん棒は、あの、強盗用、対策。この間一回出動したんやけど、何もなかったけどね。」
私「えっ!」
ママさん「あーさやちゃんに言うてないわ。ママには言ったけど。」

この後、めん棒が最近どんな場面で使われたのかエピソードを教えてくれた。肩たたきの話をしていたのに、棒つながりで思い出したであろう違う話題が繰り広げられた。

肩たたき、めん棒の写真入れる

その後も、本やスピーカーなどが置かれた木製の板について話していると、祖母のお兄さんの話へと広がっていった。

私「ママさん!ママさんこの板は何か覚えてますか?」
パパさん「兄さんが作ったやつ?」
ママさん「うん、これね、この木の木目がもう本当に珍しいんだって」
パパさん「ママさんの兄さんは、その、鏡台とかほんなん作ってた人で」
ママさん「こんなのとか(2回目に観察する木製の棚を指して)、ママさんの三面鏡とか。そんなのみな作ってくれたの。お嫁に行く時な。」
パパさん「それが仕事だから、本職。」
ママさん「だからうちの家系はみんな手先が器用。あの東(あずま)のおばちゃんにしたってそうでしょ?」

※会話の一部を抜粋

これまで祖父母の兄弟の話を聞く機会はなく、21年一緒に暮らしていて今回初めて話題に上がった。このように話題が飛んだり、広がったりすることにこそ意味があるということに気づくことができた。ただモノを見るだけでなく、そのモノに込められた想いやエピソード、そのモノから関連して思い出されるあれこれをしっかり記録していきたい。

気づき② 回想法としての可能性
卒プロ1期間中に5回進捗を共有する機会が授業の中であったのだが、観察1回目の内容を共有したときに「モノをきっかけにして話す」というやりとりが回想法に近いのでは、と言われた。公益財団法人長寿科学振興財団の健康長寿ネットによると、「回想法とは、昔の懐かしい写真や音楽、昔使っていた馴染み深い家庭用品などを見たり、触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う一種の心理療法」だそう。モノを見ると「そういえば」と何かを思い出して話すことは、実際に私が祖父母と家の観察をしたときに何度も起こった。そのモノとエピソードは繋がっているとき、そうではないときがあるが、自然と話し出すことに変わりない。回想法のような効果を与えられるプロジェクトになるかもしれないと考えると、ワクワクした。回想法は、対象者に応じた細かいシナリオを準備するのを推奨しているため、その姿勢を参考にして、インタビュアーに応じて一部方法を変えるやり方も考えてみたいと思った。

【2回目】

  • 場所:1階 木製棚エリア
  • 日時:6/12(木)18:40〜 
  • 所有時間:45分間

気づき① 「手作り」の話やすさ
2回目は、前回ほど話題が広がらない感じがした。それでも特定の話になると祖母がよく話すようになった。自分が手を加えたモノについては積極的になり、別のエリアにあるモノまで持ってきて話していた。

私「このケースは何?」
ママさん「牛乳パック!」
私「すご!牛乳パックで作ったの!?すごい!結構なんか、高さがそれぞれ違うんだね。」
ママさん「あー違えてあるの」
私「すごい、こられてる」
ママさん「こんなんだったらいっぱいあるよ〜(部屋から持ってきた)」
私「すごい!いっぱいある(笑)」
ママさん「向こうにも」
私「へ〜これも?これ牛乳パックじゃないでしょ(ぷくぷくしてる)」
ママさん「これも牛乳パック」「ほれで、これ布の中に綿を、これ。」
私「あ、入れてるのね」
ママさん「うん。ホワホワ〜としてるでしょ?布貼るんが大変。」

※会話の一部を抜粋

これ以外にも、洋服の虫食いにあった部分を刺繍した話、栞を作った話など、2回目は手作りしたものについて多く語ってくれた。ママさんは普段からタオルを服にアレンジしたり、破れたジーンズを雑巾にしたり、「何も無駄にしない」「より便利に」という気持ちを元にモノに手を加えるのが好きである。そういうママさんの一面がよく見えた回になった。

気づき② とりあえず残す
観察している時、「ママさんはよう捨てないんだよね」「処分するものがいっぱいあるんだよ、こうやってみたら」とパパさんが言う場面があった。ただ、言うだけで捨てることはなかった。昔使っていた4台のガラケーやスマートフォン、町内会の集金で活用していた領収証など、もういらないものがたくさん残っていた。観察1回目の時も、大量の裏紙が棚にしまわれていた。「いつか使うかも」と、捨てるか迷ったら捨てない方を選ぶという価値観が表れている。父が迷ったら捨てる派だったので、祖父母の価値観を改めて言葉として聞いたときは新鮮だった。

【3回目】

  • 場所:2階 ベッドルームのクローゼット
  • 日時:6/26(木)10:00〜 
  • 所有時間:150分間

気づき① 「捨てる・捨てない」の判断
3回目は、初めて母と私が暮らす2階で、普段あまり開かないクローゼットを観察してみた。1階の時同様、「これは何?」と好奇心旺盛な5歳児のように聞いていった。そこには、母の冬物の服、もう着ない着物、私が小さい頃好きだった本や色鉛筆、父のお気に入りだった服などいろんなものが入っていた。すると、母が「いらないものは捨てちゃおう」とゴミ袋を取り出してきた。リサイクルできるもの、捨てるもので分けて、2人でいらないと判断したものはどちらかの袋に入れていくことにした。結果的に、ゴミ袋2つ、リサイクル袋1つ分を処分することになった。また、母と観察を行っていると、クローゼットの上にソファーに取り付けるヘッドレストを見つけた。その隣には謎の紙袋も。ヘッドレストは本来あるべき場所へ、紙袋は中身を確認し、小中高の同級生と「30歳になったら開けよう」と約束したタイムカプセルだと分かったため、分かりやすいようにメモをつけた。このように、3回目は片付けながら行うことになった。

そこで、私たちは日常から「片付ける」という行為を無意識的に行っていると気づいた。捨てるもの、元の場所に残しておくもの、場所を変えて残しておくもの、誰かにあげるもの、いろんな片付けを短時間で判断して行動に移している。そのやり方や判断する時間はモノへの思いの深さによって異なったりもする。今回の観察は、その無意識の行動をあえて言葉にしながら行う機会になった。声として発しなくても、よく考えてモノを移動させる機会になった。これはなんで捨てるのか、これはなぜ残したいと思ったのか、これをここに置き直した理由は何か。家でのこのようなモノの動き、それに伴う思いを丁寧に記録することで、家族の大切にしているもの、考えがわかるかもしれないと思った。片付けも、「家から家族を紐解く」方法として有効かもしれない。

気づき② アルバムは最強アイテム
クローゼットの中には大量の父と母のアルバムがあった。両親はスピード婚だったため、2人の初々しい写真はほぼなく、学生時代や20代にそれぞれが旅行先で撮った写真などが大半だった。ただ、見ていると写真から人となりが見えてくる。もう直接確認できないが、写真を通して父の昔の様子を垣間見ることができた。そこで、お葬式の時に参列していた父の高校時代の友達が「ニカーッと笑うんだよな、そうそうこの顔!」と飾ってあった写真を指さして語っていたのを思い出した。これまでいろんな人に「お父さん似だね」と言われ続け、その度嫌な顔をしていたのだが、アルバムに映る父の笑顔があまりに自分と似ていたので、納得してしまった。アルバム、写真を見ると自然と会話が生まれる。「昔はこんな子だった」「この時は〇〇が流行っていた」と当時の話はもちろん、「今のさやちゃんくらいの時だよ」と現在の話になることもあり、母と時代を跨いでいろんな話をすることができた。回想法でも写真を活用すると言われているが、家族を知るためにアルバムを活用するのも一つの手だと感じた。

このように、3箇所観察を行い、性格や生活、過去や家族との関係性など、モノから分かることはたくさんある。ささやかな日常、そんな日常を過ごす家を丁寧に見ていくことで家族についてより深く知ることができると確信できる卒プロ1になった。

 

これから

【夏休み中】
「家から家族を紐解く方法」として何がいいのかを考えるため、様々な方法で観察を試す予定だ。あるモノから別のモノを連想してもらい、それに関するエピソードを聞く連想ゲームのようなやり方や、直接的に「こだわりがあるエリア・モノ」を紹介してもうやり方などを考えている。また、片付けながらやる場合に何をもって捨てる・捨てない・別の場所へ移動を判断しているのかも丁寧に記録したい。そこに家族について知るヒントが隠されているか気になっている。さらに、観察をして感じたこと、気づきなどをその日のうちに記録することも意識的にやっていきたい。ボイスメモでも箇条書きでも、自分がその日の観察で印象に残ったことはなんだったか、残しておく予定だ。

【卒プロ2】
夏休み中に記録方法を絞ることができたら、2周目をやってみたい。1回目の内容を元に話題を少し変えて行ったり、メインで語っていた人とは違う人を呼んで行ったり、回数を重ねることで得られる情報が変化するかも興味がある。また、卒プロを行うことで家族との関係がどう変化しているかも言語化していきたい。卒プロ1を通して、家族との会話、特に祖父母とのコミュニケーションに変化が起こっているのを感じている。接触回数が増えたのはもちろん、日常会話だけでない深い話を以前よりもしやすくなったり、小さい頃の祖父母との思い出を振り返る機会が多くなったり、プラスに変化している実感がある。これからは、家から家族を紐解く方法、それを明らかにする過程での家族との関係値の変化をまとめていきたい。来年4月になると、家族とは今以上に一緒にいる時間が少なくなる。このプロジェクトが自分と祖父母、両親との関わりを記録したものになったら嬉しい。

 

参考文献・資料