まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

電車にゆられて、まちを想う。(豊橋編)(2008)

豊橋フィールドワーク|2008年11月29日(土)〜30日(日) 愛知県豊橋市

中吊りギャラリー|2008年12月1日(月)〜14日(金) 豊橋市電 車両内

豊橋を歩く

2008年度3回目のフィールド調査は、豊橋でおこなわれました。これまで、江の電や函館市電の沿線を歩き、その成果を「中吊りギャラリー」として発表してきましたが、今回は、その第3弾、「豊橋編」です。

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土曜日の朝、大きくて青い空と、色づいた銀杏の木々に迎えられました。全員が無事に到着し、スケジュールを確認したあと、まずは、いつものように、カメラを提げて歩くことからはじめます。

豊橋の市電は、全長がおよそ5キロほどなので、歩いてまちを把握するには、ちょうどいいスケールです。コンパクトながらも、カラフルな車両が、まちを駆けます。「市電が見える・市電から見える」をテーマにまちを歩き、気づいたこと・感じたことを「中吊り広告」としてまとめます。
今回は、全員がノートPCを持参し、さらに大学から大判プリンターもはこんできたので、フィールドワークが終わったら、すぐに制作にとりかかり、翌日には完成させてしまおうという計画です。

すぐにつくる

フィールドワークの成果を「中吊り広告」にまとめる試みは、今回で3度目ですが、これまでは、フィールドワークののち、数か月ほどかけて、デザインしてきました。時間に余裕があると、まち歩きをふり返りながら作成できるので、フィールドワークの体験が再構成され、ある程度熟成されたアイデアが、かたちになります。でも、じぶんたちの作成した中吊り広告を載せて走る電車を見るためには、もう一度出かけなければなりませんでした。ぶらりと出かけることのできる距離ならともかく、ふたたび、みんなでまちを訪れるのは、かならずしも簡単なことではありません。

そこで、今回は、“豊橋にいるあいだに仕上げる”というやり方ですすめることにしました。学生たちは、フィールドワークを終えたら、息つく暇もなく中吊り広告の作成にとりかかり、翌日の午後2時を期限に、完成を目指します。

この試みは、また出かける必要がない、という利便だけではなく、あたえられた時間のなかで、みずからの活動を組み立てるという課題に向き合うことが重要な意味を持ちます。素材を集める、アイデアを整理する、デザインするという一連の流れを、じぶんで設計することになるからです。もう一杯くらい飲みたい、夜景も眺めたい、睡眠時間も確保したい。じぶんの能力とコンディションをふまえた、構想力と実行力が問われます。

ふたたび、現場へ

日曜日の朝も、爽やかに晴れました。朝から作業が再開され、プリンターが忙しく動きはじめて、みんなの中吊り広告が順番に印刷されてゆきます。ひとり一人がPCを持っていても、プリンターは1台だけなので、予想していたとおり、印刷待ちの「列」がボトルネックになりました。そして、よくある話ですが、途中でコンピューターがフリーズしたり、用紙サイズの設定などでなかなか思うようにプリンターが動かなかったりと、少しずつ期限が近づきます。それでも、ほぼ予定していた時刻に、無事に全員の中吊り広告が出力されました。そして、できたばかりの中吊り広告を持って、駅へ移動です。今回は、とよてつ(豊橋鉄道株式会社)のご厚意で、講評会の「場」として貸切の車両が走ることになりました。

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14:40ごろ、ぼくたちと、関係者を乗せた「プレゼン列車」が、豊橋駅を出発しました。動く車両のなかで、流れる豊橋のまち並みを背景に、ひとり一人が、作成した中吊り広告について発表します。電車のなかでの講評会は、めったにできない、とても面白い体験でした。電車にゆられながら、同乗していたかたがたから、質問やコメントなどをいただきました。発表が終わった分から、車内にぶら下げていき、徐々に、みんなの中吊り広告で車内は賑やかになりました。休憩時間もふくめて90分ほどで、「プレゼン列車」はふたたび豊橋駅に戻って、講評会は終了です。

ひとり一人の力を高める

今回のフィールドワークでは、「その場でつくって、その場で還す」という側面を際立たせることができました。急かされて取り組むのは、少しやりづらい面もあったはずですが、かぎられた時間のなかで一連の作業をこなし、かたちにするところまでを終えたときの達成感は、格別です。

いっぽう、それを実現するためには、参加者ひとり一人がノートPCを持参し、さらには大きなプリンターもはこぶという、いささか大げさなお膳立てが必要でした。モバイルの利点を活かすためには、もう少し身軽に動けるようなくふうが必要になります。たとえば、PCや大判プリンターなどもふくめ、できるかぎり現場で調達してすすめることができれば、ぼくたちが理想とするスタイルに近づきます。もっと軽快に、「その場でつくって、その場で還す」ようなフィールドワークをデザインすることが、これからの課題です。

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まちを歩くことからはじまり、編集から印刷まで、ひとり一人が責任をもってすすめたという意味では、今回のフィールドワークは「個人作業」でした。ただ、 たとえば、1台しかないプリンターをめぐっては、他の参加者との調整も必要になります。何よりも、貸切の電車が出発するまでに、全員が印刷を終えていなければならない。個人で作業をすすめながらも、全体の進捗に目を配る能力も問われるることになります。グループワークは、たんなる「分業」ではありません。能力の高い個人が集まったときにこそ、グループとしての価値も高まるのです。みんなでフィールドワークに出かけると、まちや地域のことばかりではなく、コミュニケーションや組織のあり方についても、いろいろと考えさせられます。*1

*1:この記事は、http://vanotica.net/toyop1/ をもとに加筆・修正したものです。ほぼ原文のまま。