まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

Day 0: 月夜にはじまる 🐢

2024年5月23日(木)

出発の日というのは、朝からそわそわする。荷物をまとめて、忘れ物がないかチェックする。19:00出航なので、時間には余裕があるはずなのに、焦りと、それ以上に高揚感があって、結局、家を出る間際までドタバタしていた。クルマがあると思うと、つい荷物が多くなってしまうのだ。

2度目の「フェリー どうご」である。2年前の夏、土佐町(高知県)で高校生向けのワークショップをひらくことになり(→ キャンプ土佐)、そのときもフェリーで徳島に向かった。当時はまだ新型コロナウィルス感染症の影響下にあって(いまでも、もちろん注意は必要だが)、対面でワークショップを実施するにあたっては、気を遣うことが多かった。ましてや高校生たちを「お預かりする」立場なのだから、なおさらのことだ。思えば、みんなマスクをして、食事の時間には黙って食べていた。
フェリーで出かけた理由は、大判プリンターをはこぶためだった。少しずつ移動が許されるようになり、ずっと続いていた「ステイホーム」の窮屈さへの反動もあったと思う。わざわざフェリーに乗って遠くまでプリンターをはこぶなんて、と思いつつ、高校生たちと一緒にポスターづくりのワークショップをするのだから、大判プリンターでいつものようにA1サイズで出力したい。そう思った。現場にプリンターがないなら、はこべばいいのだ。
大好きな映画『顔たち、ところどころ』(2017)のように、行った先々で大きく印刷するのは楽しい(2年前にも同じようなことを書いた)。その後、仙台や浜松でのワークショップのさいにも、プリンターを載せて出かけた(大判プリンターは、ポータブル電源で問題なく動かせることもわかった)。

2024年になって、ずいぶん自由に動けるようになった。いろいろなことが、少しずつ、5年前のころに戻りつつある。今回は、徳島県の美波町(日和佐)で、ポスターづくりのワークショップ(キャンプ)をおこなうことになり(→ 美波キャンプ)、いろいろ考えて、クルマで(フェリーで)移動することにした。まず、12年間乗ったクルマ(170,000キロ走った)を手放して、あたらしいクルマに買い換えたので、とにかくクルマに乗りたい(納車直後あるある)。そして、しばらく休んでいた「カレーキャラバン」も「カリーキャラバン」として、あらたに活動をはじめたばかりだ(旅先で調理するのはひさしぶり)。さらに、今学期はサバティカル(特別研究期間)をいただいているので、ずいぶん気楽だ。この状況なので(三拍子そろったような?)、クルマには大判印刷のできるプリンターと、カレーのスパイスと調理器具一式を載せて出かけることにした。もはや飛行機で身軽に、というわけにはいかない。

船のスピードはいい。有明港を出ると、徳島港までおよそ18時間。のんびりと揺られながら過ごす。19時。定刻どおりに出航した。デッキに上がると、とても美しい夕空だった。原稿の続きを書くつもりだったが、あの夕陽を見たので、ビールにした。日付が変わるころには電波が届かなくなる(2年前に体験済み)。
電波がなくなると、切断された気持ちよさのようなものがあって、あとは、月に照らされる静かな海をぼんやりと眺めるだけだ。海は穏やかで、船は大きくは揺れない。横になると、小刻みな振動が背中から伝わってきて、眠りに誘われる。