Day 3: 出かける
2015年3月2日(月)
3日目。もともとの予定では、Heritage of Mei Ho House Museum(美荷樓生活館)を見学することになっていたが、きょうは休館だったため、ちょっと遅めのスタートに。ぼくは、何人かの学生たちとともに、Mei Ho Houseのすぐ裏にある丘に上ってみることにした。
秋学期に「団地の暮らし」というプロジェクトをすすめているとき、今回の「特別研究プロジェクトB」の実施が決まり、学生たちに『香港ルーフトップ』(原題は"Portraits from Above: Hong Kong's Informal Rooftop Communities")という本を紹介していた。邦訳版の解説文を書いている大山顕さんをゲストに招いて、洋光台団地の界隈を一緒に歩いたり、加藤研のプレゼンテーションの講評をしてもらったりする機会もあった。もちろん、ぼくの「マニア」度は低いが、集合住宅での暮らしに関心が高まり、『香港ルーフトップ』に載っている写真を見たこともあって、少し高いところから香港のまち並みを眺めてみたかったのだ*1。急な階段を上って、10数分で丘のてっぺんにたどりついた。見下ろす香港も、面白い。路上から感じるのとはちがう。遠くには、海がかすんで見えた。あたらしい建物もあれば、大がかりな工事がおこなわれている現場もある。『香港ルーフトップ』のような屋上は見つからなかったが、それでも、空間を求めて上へ上へと伸びてゆく、そうせざるをえない事情があることは、よくわかる。
午後は、地下鉄とバスを乗り継いで、みんなでKwun Tong Youth Centre(香港基督教服務處, 深中樂teen會)へ。もともとは、CYEPの学生たちのボランティア活動の一環で、香港に暮らす少数民族の生徒たち(この日は、パキスタン、フィリピン)との交流事業だった。交流と言っても、ヘナタトゥーの体験やサモサのつくり方など、ちょっとした異文化紹介の活動をとおして、大学生と生徒たちとの交流の場面をつくるというものだ。その先には、(少数民族として)彼/彼女たちが香港で生きるということ、教育やキャリアのことへの意識を高めるというねらいがある。
香港の少数民族は、人口のおよそ5%を占めるという。ヘナタトゥーもサモサづくりも、訪問先で生徒たちが提供してくれるものなので、こちらもそのお返しに何かをしましょう…ということになり(このあたりの具体的な事情は、じつは実際に訪ねるまで知らなかったのだが)、ぼくたちは、香港に発つ前のオリエンテーションで、太巻き(キャラ巻き)づくりの実演と折り紙教室を用意することを決めていた。
折り紙については、それほど凝らなければ、まぁなんとかなる。もういっぽうの太巻き(キャラ巻き)については、予期せぬ(幸運な)展開になった。ちょうど、加藤研の卒業生であるナカノさんが昨年の秋から香港での暮らしをはじめていたので、ひさしぶりにランチでも食べようという話をして、やりとりをしていた。ひょんなことから、彼女が、日常的にいろいろな太巻き(decoration sushi)をつくっていることがわかり、ダメもとで実演を打診してみた。ちょうどこの日は時間があるというので、急遽(ランチどころか)実演のボランティアをお願いすることになった。実際には、香港に移り住む前に"Certified decorative sushi instructor by Tokyo Sushi Academy" というインストラクターの肩書きを取得している「本格派」だった。
Decoration sushi (by Yuka Nakano)
できすぎた偶然ではあるが、ナカノさんの実演(そして、昼間からの仕込み)のおかげで、太巻きはとても好評だった。仕上がりや味もさることながら、"certified"というだけあって、とても手際がよかった。ネット上の画像やレシピを見ながらやれば、アンパンマンの太巻きくらいつくれるだろう…と口走っていた学生たちの無知と無謀さを、いまでも恥ずかしく思う。あとから聞いたのだが、アンパンマンはかなり難易度が高く、(慣れている人でも)巻くのに1時間はかかるとのことだ。(ちなみに、カエルは比較的簡単。ナカノさん、ありがとう。)
ヘナタトゥーもサモサづくりも、和気あいあいとして、いい雰囲気だった。とりわけ、キッチンでの交流は楽しい。おそらくは、カレーキャラバンが3年も続いているのは、そのためだ。誰かと一緒につくって、一緒に食べる。それだけのことなのだが、調理の場面では、コミュニケーションが息づく。けっきょく、後半は大部分の学生も生徒も、キッチンに行って、がやがやと過ごしていた。
Kwun Tong Youth Centre(香港基督教服務處, 深中樂teen會)
こうして、CYEPの活動との接点がなければ、行くことはなかったはずの場所に行き、香港に暮らす少数民族の生徒たちに会うことができた。じつは、この交流の現場は、加藤研の学生にとっては、CYEPの学生たちを、引き続き取材する現場でもあった。一緒に時間を過ごしながら、話を聞き、写真を撮る。そのなかから、ポスターが生まれるのだ。
おまけ: Be water my friend
(つづく)
*1:香港の団地のことは、「マニア」の大山さんが、昨年末に香港に出かけたときの記事を読もう。