まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

ひさしぶりに地図を塗った。

2022年9月30日(金)

およそ2年10か月ぶりに、地図を塗った。「キャンプ」と呼ぶワークショップ(フィールドワーク)*1をはじめて、もう20年近くになる。フィールドワークを計画するとき、深く狭く(同じ場所に何度も出かける)という道筋もありえたのだが、浅く広く、47都道府県の踏査を目指すことにした。せっかくなので、北から南まで、たくさんのまちを訪ねてみようと思ったのだ。

キャンプ|2004〜2022(2022年9月27日更新) 地域別インデックス

最初のころはポストカードやビデオなどをつくっていたが、2009年にポスターづくりを本格的にはじめることになった。学生たちとともに宿泊を伴うかたちで逗留し、滞在中に取材をして成果をまとめる。かなりタイトなスケジュールで動くことになるが、「宿題を持ち帰らない」というやり方が、じつは大切なのだ。現場では慌ただしく話を聞いて、写真やビデオを撮って、大学に戻ってくるとお礼すらしないまま時間が過ぎゆく。調査の成果についてもきちんと報告せずにいるのは、あまりにも不義理である。「キャンプ」をはじめて数年経ったときに『調査されるという迷惑』*2を読んで、大いに反省した。それからは、(可能なかぎり)「宿題を持ち帰らない」ための方法や態度について考えるようになった。
現場でつくって、現場で成果報告まで済ませようとすると、どうしても慌ただしい動きになる。わずか数時間のやりとりで、取材に協力していただいた人の「生きざま」を理解することなどできるのだろうか。会ったばかりの人の複雑な日常を、たまたま訪れた「よそ者」が、どこまで語ることができるのか(語ってよいのか)。しかも写真にことばを添えて、ポスターにする。かなり乱暴なことをしているような気もする。

ポスターづくりのワークショップは、大忙しである。2時間程度の「取材」を経て、翌朝にはポスターを印刷する段取りだ。この慌ただしい「キャンプ」を、10数年にわたって続けてきた。「楽しそうだけど、これが何になるのか」と問われる場面は少なくない。「マンネリだ」と揶揄されたこともある。一つひとつの現場は一回かぎりで、あっという間に消えてしまう。だが、地道に続けてきたおかげで、ポスターは数百枚になった。それは、ポスターの形になった人びとの「生活記録」の束だ。ポスターを並べて眺めてみると、一人ひとりの個性も、いくつものまちに共通する(より一般的な)課題も、同時に見えてくる。並べて眺めるまでには、それなりの時間が必要だった。


2022年3月|フィールドワーク展XVIII(BUKATSUDO, みなとみらい)

夏の終わりに、仙台市(宮城県)でポスターづくりをおこなった*3。地図をひさしぶりに塗って、これでようやく「東北地方」をすべて訪れたことになる。しばらく白いままだった宮城県に色をつけて、北海道—東北—関東—中部まで、ひと続きになった。もちろん、この活動だけをすすめているわけではないし、(たとえば北から南へというように)あらかじめ順番を決めて巡っていることもない。ご縁も事前の準備も必要なので、時間はかかる。
つながりがつながりを呼んで、複数回出かけたまちもある。釜石市(岩手県)に2回、深浦町(青森県)には3回行く機会があった。それぞれのまちで出会った人びとのようすは、A1サイズのポスターになった。滞在中にひらく成果報告会(ポスター展)のポスターもふくめると、「東北地方」でつくったポスターは全部で93枚になった。

東北地方でつくったポスターたち(2009〜2022)

「東北地方」で最初のポスターづくりをしたのは2009年の冬で、その後、6県すべてを踏査するのに13年ほどかかった。あのころ一緒に東北に出かけた学生たちは、いまでは家庭をもち、子育てをはじめている。ぼくも、そのぶん歳をとった。〈あのとき・あの場所〉でポスターになった一人ひとりも、時間ともに変わっているはずだ。ずいぶんゆっくりとすすんでいるようにも思える。だが、とかくスピードばかりが要求され、「コスパ」(最近では「タイパ」ともいうのもある)で判断をせまられる場面が多いなか、じっくり、少しずつすすむ活動があってもいい。時間をかけなければ、わからないことはたくさんあるからだ。むしろ、手間ひまをかけることの価値を知らずにいるほうが、残念に思えてならないのだ。

*1:加藤文俊(2009)『キャンプ論:あたらしいフィールドワーク』慶應義塾大学出版会

*2:宮本常一・安渓 遊地(2008)『調査されるという迷惑:フィールドに出る前に読んでおく本』みずのわ出版

*3:仙台キャンプ https://camp.yaboten.net/entry/snd