まちに還すコミュニケーション

場のチカラ プロジェクト|Camp as a participartory mode of learning.

みたび、フーカットへ(4)

Day 4: 2019年2月25日(月)

今朝は6:00に出発。朝8:00の飛行機で、ホーチミンに向かう。いろいろな都合で、けっきょくフーカットでは3日。それでも、なかなか充実した毎日だった。あらためて、あたらしくなった空港のビルをみると、これまでとはずいぶんようすがちがっていた。LCCの乗り入れが増えていて、たとえば、このクィニョン(Quy Nhơn)界隈のリゾートを手がける総合商社が、作秋にあたらしくBamboo Airwaysの運航を開始したとのことだ。ぼくたちが訪ねているのは、内陸の農家や学校だが、海沿いは、国外からの観光客のためのリゾート開発がすすんでいる。空港のビルがこうして整備されているのも、この流れと無関係ではないはずだ。
チェックインを済ませて、ゲートに併設されているレストランで朝食。また、フォーを食べた。ホーチミンへは1時間ほどのフライト。梅垣さん、Chiさん、学生たちとともに、タクシーで市街に移動した。大学1年生のころからなので、ずいぶん長く運転しているが、このまちでクルマを運転することはないだろうと思った。相変わらずの混雑と、バイクの数。Grabも、たくさん見かけた。バイクの後ろの席でスマホをいじるのは、“歩きスマホ”よりは安全なのだろう。


190225_Slowly_HoChiMinh(動画は2019年3月2日に公開)

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ランチの前に、少しだけ、ホーチミン広場の近くをぶらぶらした。地下鉄の工事がすすんでいるらしい。ちいさなお土産を買って、昼食。ずっとベトナム料理だったが、たまには“Western”で、という流れになった。そのあとは、梅垣さん、Chiさんの提案でThe Deck Saigonに向かう。そのレストランは、大きなお屋敷の並ぶ界隈にあった。川を臨む、気持ちのいい空間だった。ぼくたちが行ったのは午後の早い時間だったが、夕陽が沈む頃には、とてもきれいなはずだ。グラスを片手に、川をバックに写真を撮る(まちがいなくSNSに投稿するためのもの)人がたくさんいた。ぼくは、地ビールのホワイトエールを試してみた(その場ではSNSに投稿せず)。

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あっという間に、旅が終わろうとしていた。あとは空港に向かい、ハノイを経由して気温差20度ほどの東京へ。5人でテーブルを囲んでいたが、みんな、のんびりと座っているうちに無口になった。アルコールも手伝ってか、静かな時間になった。ぼくは、ゆっくりと流れる川面を遠くに見ながら、いろいろ考えた。

滞在中には思いつかなかったのだが、このときになって、昨秋に参加したアメリカ人類学会(AAA)でのセッションのことを思い出した。あるセッションのコメンテーターとしてお声がけいただき、話をしたのだが、そのときは日本語の「ままならない」ということばを引き合いに出した。日常生活は、さまざまなハプニングの連なりで、そのなかでいくつもの〈モノ・コト〉が複雑に、相互に影響をあたえ合っている。それを、無自覚に「安定」と呼ぶことはできない。そして、「安定」と呼びたい状況は、じつは絶えず移ろうものだ。結局のところ、一時的に「均衡」を保っているにすぎないということだろうか。「絶妙なバランス」というつもりで“delicately balanced”という言い方をした。この表現は、意外と好評だった。あきらめでも開き直りでもなく、夢や希望がないわけでもなく、ただ目の前にある「ままならなさ」を受け入れて日常生活を送ることには、それ自体、じつは価値や美徳さえあるのではないか。きちんと伝わったのかどうかはわからないが、ぼくが言いたかったのは、そういうことだ。
それが、(いまになって)これまでのベトナムの旅と結びついた。ぼくたちが訪問した家庭は、いずれも「ままならない」状況とともに暮らしている。家計のこと、子どもたちの将来のこと、家族のこと。決して「安定」などと呼ぶことはできない。問題はわかっているし(しかも複合的な問題だ)、どうやらスッキリと解決できそうもない。それでも、毎日は容赦なく訪れる。未来が見えないながらも、喜びも笑いもある。それが、「生きる」ことの姿をリアルに伝えてくれる。

「問題発見」を経て「問題解決」を目指すこと自体、数ある(考えうる)ストーリーのひとつに過ぎない。問題は、もうすでに見えている。当面は、その問題とともに「生きる」しかない。解決が難しい問題をまるごと引き受けながら、どう暮らしてゆくかというところから、フィールドワークを考えていかなければならない。10年という歳月を経て、“Dream Class”の生徒たちも、このプロジェクトとともに成長し変化し続けている。🐸
(おわり)

◎おまけ:今回も、たくさん食べた。毎度のことながら、ベトナム料理との相性はいいみたいだ。

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